Parov16

好きな歌やドラマについて和訳したり解説します

I Get Overwhelmed - Dark Rooms(和訳)

このところずっと短編を訳していたのですが、ふと和訳したい歌詞のことを思い出しました。

映画『A GHOST STORY』(2017年)の主題歌で、劇中で印象的に使われているとても美しく悲しい曲です。歌詞についての説明は、和訳のあとに書きました。

 

***

 

Are you runnin late?
Did you sleep too much?
All the awful dreams
Felt real enough
Is your lover there?
Is she wakin up?
Did she die in the night?
And leave you alone?
Alone

 

夜遅くに走っているの?
寝過ぎてしまったの?
どれも恐ろしい夢だよね
とてもリアルで
恋人はそこにいるの?
彼女は目を覚ましているの?
彼女は夜に死んだの?
そして君を一人残して去って行ったの?
一人残して

 


Mirror, mirror
There's your crooked nose
Boring hair
A thousand wrinkles
No children
Just emptiness
No place like home
Just a fucking mess

Mess

 

鏡、鏡
君の曲がった鼻が見える
平凡な髪の毛と
たくさんのシワ
子供は持たなかったから
空っぽだ
もう家なんて呼べるものはないんだね
馬鹿みたいな混乱だけ

混乱だけ

 

 

20 messages
Did you hurt your thumbs?
What a stupid game
Getting nothing done
With your longest track
Your highest score
While you crush your back

And lament the war
War

 

20通メッセージが来ている
親指が痛むの?
何て無意味なゲームをしているんだ
得るものなんて何もないのに
ずっとやり続けてる
最高得点を取る頃には
背中が潰れてしまう

こんな戦いを嘆いている
戦いなんだ

 


All the women
That you wanna fuck
On the internet
Wouldn't give you a second look
Did you fool yourself?
That's privilege

That's power without power
That's a business
Business

 

女たちがみんな
君と寝たいと言ってくる
インターネットでね
君を二度見ることさえないのに
君は自分を騙したの?
ネットでなら手軽だね

そうは見えないけど権力なのさ
こんなものはビジネスなんだよ
ビジネスさ

 


But we know "you" is "I"
And I get overwhelmed
Can't sleep at night
Can't convince myself
To turn it off

To let go
Gotta make sense
Of the fucking war
War

 

でも「君」は「私」だと互いにわかっている
だから打ちのめされるんだ
夜は眠れない
自分を納得させて
忘れることもできない

前に進むために
意味を見つけなければならない
このどうしようもない戦いに
戦いなんだ

 


Am I runnin' late?
I get overwhelmed
All the awful dreams
All the bright screens
Is my lover there?
Are we breakin up?
Did she find someone else?
And leave me alone?
Alone

 

私が夜遅くに走っているのか?
打ちのめされるんだ
どれも恐ろしい夢なのは
どれも幸せだった過去だから
恋人はそこにいるの?
私たちは終わってしまったの?
彼女は他の誰かを見つけたの?
そして私を一人残して去って行ったの?
一人残して

 

 

 

***

 

元々は映画のために作られた曲ではないようですが、映画と歌詞の状況は似ています。詩のような歌詞の意味も、映画を観るとわかりやすく感じます。この歌詞が訴えているものが身に迫るほど感じられて、映画とは切り離せない曲になっている気がします。

 

歌詞の中の人物は「彼」に話しかけています。「彼」は寝過ぎてしまって、夜遅くに走っています。彼の恋人はどこにいるかわかりません。死んでしまったのかもしれません。彼は一人置き去りです。

「彼」は自分の姿を鏡で見ています。彼女とは長い付き合いですが、二人の間に子供はいません。だから残ったのは彼だけで、彼女と過ごした証は何もなくなり、あるのは散らかし放題になった部屋だけです。

「彼」はしたいこともなくゲームをやり続けて、(おそらくコントローラーで指を使い過ぎて)親指が痛むほどになっています。それを見ている「私」は、ゲームは不毛で無意味だと訴えています。

「彼」のところには20通もメッセージが来ていますが、彼を知りもしない女性たちからのメッセージです。女たちは彼を誘惑してきますが、そこに彼女とのあいだにあったような愛はありません。愛の世界はもうここにはありません。あるのは力が支配している世界です。それは支配力を持った者たちが行なっているビジネスなんだと、「私」は訴えています。

そして、でも「彼」は「私」なのです。「彼」とは夢の中にいる「私」のことなのです。もしかしたら、夢の中にいるのは「私」の方なのかもしれません。「私」は悲しみと混乱とに向き合っていかなければならないこの戦い(fight ではなく war と表現するほどの戦いです)、彼女との記憶を乗り越えて行かなければいけない(To let go)という酷い戦いを嘆きながら、そこに意味を見つけようと必死です。ここはすでに愛のない世界なのに。

「私」は、彼女を忘れられません。テレビを消す(To turn it off)ように記憶を手放すことはできません。彼女と過ごした幸せな日々が夢の中に現れてきて、寝過ぎてしまうほどなのです。幸せでリアルな夢だからこそ、目覚めた時には恐ろしい夢に変わるのです。

 

この曲の悲しみはそのまま映画と同じです。『A GHOST STORY』を観た時は、わたしは本当に感動して号泣しました……。映画と同様にこの曲も傑作だと思います。彼女がいなくなってしまった、その苦しみが伝わってくる悲しい歌です。