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グラナダ版ホームズ『第二の血痕』の魅力について(その4)

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注意事項です。

このドラマはミステリ―なので、読んでしまうとネタバレしてしまいます。

ですので、この記事は、『第二の血痕』の原作をすでに読んでいたり、グラナダ版ホームズの『第二の血痕』を観たことがある方向けの記事です。

英語の原文はWikisourceからです。

The Return of Sherlock Holmes/Chapter 13 - Wikisource, the free online library

原文内の打消し線はドラマで省略された部分、括弧はドラマで加えられた部分です。大まかにですがドラマに沿わせて載せています。

(このブログでは『第二の血痕』の英語原文の全文翻訳もしてみました。趣味的な緩めの和訳ですが、よろしければ翻訳カテゴリから読んでみてください。)

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さて、ルーカス殺しの犯人は逮捕されたものの、手紙を奪還しなければならないホームズとワトソンは殺人現場であるルーカスの家に向かいます。

原作ではルーカスの家でレストレード警部が出迎えてくれるのですが、ドラマではこのシーンが少し凝っていて、新聞を買うためにたまたま馬車から降りたレストレードに二人が歩いているところを見つかってしまうシーンになっています。

向こうにレストレードが立っているのを見つけて、即座に後ろを向いたのに後ろから声を掛けられてしまい、作り笑顔でレストレードに挨拶する二人が楽しいです。

 

ところが、レストレードがホームズに話した”ちょっとした奇妙な出来事”が、この事件の解決の糸口になります。

レストレードに案内されて、ルーカスの家でその奇妙な出来事について話を聞いているうちに、ホームズの顔は表情を失っていきます。

I could see from Holmes' rigid face that he was vibrating with inward excitement.

(私にはホームズの無表情な顔が内心では興奮で沸き立っていることがわかった。)

事件解決の手がかりを見つけると、ホームズは無表情(rigid face)になり、それがワトソンにとっては彼の推理が順調に進んでいることのしるしになる、というのは原作でよく書かれています。

ここでも、ホームズは内心で興奮しながらこの奇妙な事件について推理し始めているのです。

 

そして、レストレードが少しのあいだ外に出たとたん、ホームズはワトソンに叫びます!

“Now, Watson, now!” cried Holmes with frenzied eagerness. All the demoniacal force of the man masked behind that listless manner burst out in a paroxysm of energy.

(「今だ、ワトソン、今だ!」ホームズは叫んだ。やる気のない振りをしていたホームズが、今度は人が変わったように猛烈に行動を開始した。)

レストレードに見せていた退屈そうな表情が一変。鬼のように(demoniacal)エネルギーを爆発させます。

二人は大慌てで、丸テーブルを移動させ、その下に敷いてある薄い絨毯(drugget)をめくり上げます。

He tore the drugget from the floor, and in an instant was down on his hands and knees clawing at each of the squares of wood beneath it. One turned sideways as he dug his nails into the edge of it.

(彼は敷物を床から引き剝がし、すぐに手と膝を床につけ、木製の小さなパネル板の一つ一つの上を這いつくばっていった。一つのパネルの側面に彼の爪が引っかかり持ち上がった。)

ホームズは素早く床に這いつくばって(in an instant was down on his hands and knees clawing)、フローリングの木のパネルの隙間を爪で探っていきます。レストレードが戻ってくるまでに見つけるために、必死です!

このシーンは文章だけで読むより映像で見るとわかりやすいです。まさにこうやっていたはずですね。

ドラマオリジナルでは、窓の外を見てレストレードを見張っているワトソンが焦りながら、"come on!"とホームズを急かします。ハラハラドキドキです!

 

It hinged back like the lid of a box. A small black cavity opened beneath it. Holmes plunged his eager hand into it, and drew it out with a bitter snarl of anger and disappointment. It was empty.

(それは箱の蓋のように蝶番で開いた。下に小さな暗い空洞があった。ホームズはそこに手を突っ込んだが、怒りと落胆のうめき声とともに手を引っ込めた。そこは空だったのだ。)

そして、ようやく隙間に爪が引っかかった床板の一枚(like the lid of a box)を開けて、その穴にホームズは手を突っ込む(plunged his eager hand)のですが、中は空でした。残念! ホームズは鼻を鳴らして悔しがります。

ちなみに、ジェレミーさん演じるホームズはたまに悔しさのあまり鼻を鳴らしますが、ここでは、それは原作でいうところの”a bitter snari”(厳しい唸り声)だったんですね。

 

今度はレストレードに見つからないように大急ぎで全てを戻します。

“Quick, Watson, quick! Get it back again!” The wooden lid was replaced, and the drugget had only just been drawn straight when Lestrade's voice was heard in the passage. 

(「早く、ワトソン、早く!元に戻せ!」木の床の蓋を閉めて、レストレードの声が廊下に響いてきたところで、絨毯が真っすぐに引き延ばされた。)

レストレードが戻ってくる寸前に、全て元通りになりました!

He found Holmes leaning languidly against the mantelpiece, resigned and patient, endeavouring to conceal his irrepressible yawns.

(戻ってきたレストレードが見たのは、変わらず退屈そうにマントルピースに寄りかかって、あくびをかみ殺しているホームズの姿だった。)

この身の変わりよう・・・!

ドラマではマントルピースに寄りかかっているのではなく、椅子に座っているのですが、ホームズとワトソンの変わり身の早さに感心しつつ笑ってしまいます。

 

しかし、床の隠し穴には手紙は見つからなかったのですが、この殺人現場を警備していた警官から、決定的な手掛かりを得ることができました。

As we left the house Lestrade remained in the front room, while the repentant constable opened the door to let us out. Holmes turned on the step and held up something in his hand. The constable stared intently.

(レストレードを残して部屋を出ると、反省し切った警官が私たちをドアの外へ送り出してくれた。そこでホームズは踵を返し、手の中にあるものを彼に見せた。警官はそれをじっと見つめた。)

“Good Lord, sir!” he cried, with amazement on his face.

(「何てことだ!」彼は驚きの表情で声を上げた。)

ルーカスの家のドアを出たところで、警備のためにそこにまた立っていた同じ警官に、ホームズが手に持っていたあるもの(something in his hand)を見せると、警官はびっくりして声を上げます。

Holmes put his finger on his lips, replaced his hand in his breast pocket, and burst out laughing as we turned down the street.

ホームズは人差し指を唇に当てると、胸ポケットにそれを仕舞った。そして通りに出たところで突然大声で笑った。)

原作にあるこのホームズが大声で笑うシーンが、ジェレミーさん演じるホームズに合っていて本当にぴったりだと思います。

 

・・・とうとう事件は解決に向かいます。

 

 

つづきます。