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グラナダ版ホームズ『第二の血痕』の魅力について(その6)

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注意事項です。

このドラマはミステリ―なので、読んでしまうとネタバレしてしまいます。

ですので、この記事は、『第二の血痕』の原作をすでに読んでいたり、グラナダ版ホームズの『第二の血痕』を観たことがある方向けの記事です。

英語の原文はWikisourceからです。

The Return of Sherlock Holmes/Chapter 13 - Wikisource, the free online library

原文内の打消し線はドラマで省略された部分、括弧はドラマで加えられた部分です。大まかにですがドラマに沿わせて載せています。

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とうとう手紙を持っていることを告白したヒルダ夫人。

“Here it is, Mr. Holmes. Would(wish)to heaven I had never seen it!”

(「これです、ホームズさん。こんなものいっそ目にしなければよかった」)

ヒルダ夫人役のパトリシア・ホッジの発する、この"Here it is."の声が良いです。高貴な人らしく、取り乱してしまったところからすぐに立ち直って、また貴族らしい声と振る舞いに戻ります。

How can we return it?” Holmes muttered. “Quick, quick, we must think of some way! Where is(and)the despatch-box?”

原作では、ここで鍵付きの文書箱(despatch-box)が今日はまだ寝室に置いてある、という幸運な展開になるのですが、ドラマではそうなりません。まだ大臣が持っている("With my husband. Wherever he goes he takes it with him.")展開になります。

 

“We have still ten(a few)minutes(left.)I am going far to screen you, Lady Hilda. In return you will spend the time in telling me frankly the real meaning of this extraordinary affair.”

(「まだ数分あります。私はあなたをお守りします、レディヒルダ。その代わり、この異常な事件の真相を全て私に話してください」)

警官に見せた写真を暖炉の火の中に捨てて、ホームズはヒルダ夫人に手を差し伸べます。先程は、ヒルダ夫人が手を伸ばしたので、今度は真逆の構図ですね。計算しつくされたような美しさです。

 

さて真相は、ヒルダ夫人が結婚前に書いた手紙をルーカスが手に入れ、返してほしければ、大臣の持っている青い封筒とその中身を渡すようにと脅されていたのでした。結婚前に書いた手紙や写真をネタに相手を脅すのは、ホームズ作品に定番の悪の手口ですね。

“(He had obtained in some way,)It was a letter of mine, Mr. Holmes, an indiscreet letter written before my marriage a foolish letter, a letter of an impulsive, loving girl. I meant no harm, and yet he would have thought it criminal. Had he read that letter his confidence would have been forever destroyed.(略)Put yourself in my position, Mr. Holmes! What was I to do?”

(「それはわたくしの手紙でした、ホームズさん、結婚前に書いた軽率な手紙でした、恋する少女が書いた衝動的な手紙です。誰かを傷つけるつもりなんてありませんでしたわ、でも、あの人はそれを許せないでしょう。手紙が読まれてしまったら、彼との信頼は永遠に失われてしまいます。(略)わたくしの立場でしたら、どうなさいました? どうしたら良かったのでしょう?)

“Take your husband into your confidence.”

(「夫に打ち明けますね」)

この台詞は原作ではホームズが言うのですが、ドラマではワトソンです。夫を信じるべきだという優しい台詞はワトソンらしいです。

“I could not, Mr. Holmes,(Dr. Watson,)I could not! On the one side seemed certain ruin, on the other, terrible as it seemed to take my husband's paper, still in a matter of politics I could not understand the consequences,(it,)while in a matter of love and trust they were(it was)only too clear to me. I did it, Mr. Holmes!(I did it.) (略)”

 (「わたくしにはできませんでした、(ワトソンさん)、できなかったんです。一方には明らかな破滅があり、もう一方には恐ろしい、夫の手紙を盗むという行為がありました。わたくしには政治のことなんて理解できません、でも、愛についてなら理解しています。わたくしは実行しましたわ、ホームズさん。(実行したんです)」)

パトリシア・ホッジの演じるヒルダ夫人の声がすごく説得力があって良いんです。

ここでの字幕は「身の破滅をとるか…/盗みをとるか… 私は政治のことなど分かりません/でも 愛情なら分かります」となっています。

簡潔過ぎて推理に必要な情報まで省略されているところもある字幕ですが、ここではこのシンプルな字幕が効いていると思います。「愛情なら分かります」というシーンで、カメラは一瞬ホームズの顔を映します。

この言葉とカメラワークで、ホームズがヒルダ夫人の言葉(ただ愛のために手紙を盗んだのだということ)を真実だと受け取ったことがわかります。

そのあとの"I did it, Mr. Holmes, I did it."と言うヒルダ夫人の視線と言葉の間にも、そのホームズの表情を読み取った夫人の含みが感じられます。

 

ヒルダ夫人の告白が終わるころにトリローニ大臣が帰ってきます。

The European Secretary burst excitedly into the room.

“Any news, Mr. Holmes, any news?” he cried.

“I have some hopes.”

ここでヒルダ夫人がトリローニにキスをして部屋から出て行きます。("This is a matter of politics, my dear. We shall not be long.")

この二人の様子から互いに深く愛し合っている様子がわかります。それに、二人のそれぞれの言葉通り、政治についてはヒルダ夫人は何も知らされておらず、大臣も知らせないことを信条にしていることも確認できます。

 

次に、大臣と一緒に昼食をとる予定の首相が入ってきます。

状況に危険はないと言うホームズですが、もちろん首相はそれでは納得しません。

“Purely negative as yet,” my friend answered. “I have inquired(made inquires)at every point where it might be, and I am sure that there is no danger to be apprehended.”

(「まだはっきりとはしていませんが」と私の友人は答えた。「考えられうる全ての点から調査したところ、危険と呼べるようなものは存在しないと断言できます」)

But that is not enough, Mr. Holmes. We can not live forever on such a volcano. We must have something definite.”

(「それではじゅうぶんではないんだよ、ホームズ君。もうこんな火山の上で生活し続けることはできん。確証が欲しいんだ」)

 

・・・手紙はじつはホームズの内ポケットの中ですよね。どうやってホームズはそれを元に戻すのか、ドキドキしてしまいます。

 

 

つづきます。